第1章 仄暗い奈落の底から -sequel -
その年の正月は、探偵さんにお金を払ってしまったから、すっからかんで。
どこにもいけずに、アパートでふたりでゴロゴロしてた。
日がな一日、智はあのときもらった音声データを、音楽プレイヤーに入れて、イヤホンで聞いてる。
もう何度も何度も…同じことしてる。
「なにかわかるの?」
「んー…わかんね」
結局、潤の言葉の意味はわからなかった。
もしかして俺たちのことなんじゃないかとは思うけど…
確信は持てなかった。
エアコンと電気ストーブで温めた室内には、他に音もなく。
隣近所はみんな、帰省してるのかな。
とても静かだった。
ベッドに凭れながら、ふたりで身体を寄せ合って。
ただ智の熱を感じていた。
お昼すぎ、部屋のドアをノックする音がした。
「誰だろ…」
智もわかんないって顔をするから、ドアスコープから覗いた。
「え…?」
そこには、翔ちゃんの姿があった。
「ごめんな。突然来て…」
「ううん。嬉しい。入って」
両手に買い物袋を下げてる。
翔ちゃんは玄関に入ると、少しはにかんだように笑った。
「あけまして…おめでとう…」
「うん…あけましておめでとう…」