第6章 夏の終わり
まだ言わないから、白い脇腹をそっと撫でた。
「あ…あっ…」
「言って、翔」
強く言うと、潤んだ目を閉じて…
そして、開いた。
妖艶に、俺を眺めると…
命令するように俺の手を引いて
そして耳元で囁いた
「口で、して…?」
めまいがする程、甘い香り…
この香りは…
そして額に感じる、あの冷たさ
”和也…”
口いっぱいに翔を頬張ると、びくびくと唇に感じる振動。
翔が生きてる脈動。
生きてる証拠。
「ね…もうっ…」
真っ白な雪みたいな腹の皮膚がびくりびくりと波立つ。
いいよ
ちょうだい
おまえをちょうだい
まるごとちょうだい
「あぁ…和也っ…」
小さく誰かの名を叫ぶ声と、口の中に広がる苦味。
温かい翔の体温。
ごくりと飲み込むと、俺と翔は…
体がふたつの、ひとつの生き物になった気がした
「翔…」
もう離さないよ
「和也…」
ああ、そうだった…
「うん…」
泣きながら、俺にすがりつくように抱きつく翔の背中を抱きしめた。
「一人に…しないからね…」
「うん…うん…」
「大学、単位取ったら、すぐこっちに戻ってくるから…」
「うん…」
やっと…手に入れた…
「このために、俺…一年頑張ったんだ」
「和也…」
「だから…これから、翔…一緒に頑張ろ…?」
アヘンのことも…
なにもかも、一緒に…
「わかった…」
翔の座る助手席のシートの後ろ。
後部座席の向こうに見えるリアウインドウから見える、あの花壇
その際には、呆然とこちらを見ている男が居た
和也、ありがとう
やっと、翔に触れられたよ
この体、大切に使わせて貰うね
【夏の終り END】