第6章 夏の終わり
「そ…っか…」
呆然とした目を俺に向けて、翔にいはまたぽろりと涙を零した。
「和也には…ずっと見えてたのか…」
「まあ…時々…ずっとじゃないよ…」
翔にいの頬に触れて、涙を拭いた。
「凄く…心配そうな顔して…俺に、翔にいを頼むって…」
「え…?」
「夢の中だったけどね…翔にいのこと抱きしめながら…そう言ってたよ…?」
涙を拭った手を、翔にいは握った。
「潤…がそんなこと…」
あの人は…
詳しいことはわからないけど、学徒出陣で出征して…
東京の大学に行ってたんだけど、早い段階で出征させられた。
中国各地を転戦して、途中までは連絡があったんだが、戦況の悪化とともに、消息は途絶えた。
翔にいの家に残っていたのは、戦地からのはがきが数枚と、出征前に撮ったあの写真だけだったということだった。
どういう状況で戦死したのか…
おじさんに聞いてみたけど、おじさんの生まれる前のことだから、やっぱりよくわからないんだそうだ。
なんとなく…水辺で亡くなったんだろうと、思った。
「もしかしたら…」
「え…?」
「あの人も、翔にいと同じだったのかもしれないね…」
孤独で…淋しくて…
でも、どこにも逃げ出すこともできない。
そんな状況だったのかもしれない。