第6章 夏の終わり
「ただ…そばに居てくれたんだ…」
触れようとしても、触れられない。
実態のない、人間。
「でもそれだけで…俺、生きていけるって…あの時はそう思えたのに…」
数年前、仕事で東南アジアの国に行った。
そこで、翔にいはアヘンを知る。
「全部…忘れられるんだ…」
「うん…」
「後に来るだるさは酷かったけど…でも、あれを吸ってる時だけは、全部忘れられて…」
最初のうちは、長期休みに入るとその国に行ってた。
でも、職場で役職がつくようになると、そんな暇もなくなってくる。
「種を…偶然なんだけど、手に入れて…」
そこからはもう、のめり込んだ。
抽出から精製まですべて一人でやった。
やり方なんて、その気になればいくらでも調べられる。
最初は失敗ばかりだったけど、ここ2年。
真面目な翔にいは、アヘンを作り出すことに成功してしまったんだ。
「…あれを吸うとね…」
「ん…」
「潤に会えたんだ…」
それまで、いつ現れるかもわからなくて。
待ってるばかりだったけど、アヘンを吸うとすぐに会えるようになった。
「…それは幻覚だったのかもしれないけど…」
「そうじゃないよ…」
「え…?」
「あの人、ずっと翔にいの傍に…居たよ…?」