第6章 夏の終わり
「翔にい…太った?」
「太ってない」
「いや、ちょっと太ったでしょ?」
「これはむくみです」
9月の終わり。
夏休みが終わるから、引き上げることになった。
翔にいはだいぶ元気になって、隔離病棟から一般病棟に移ることができた。
こっちで過ごす最後の日、翔にいの外出許可を申請してみたら、なんとか通ったから、外に連れ出した。
オンボロの中古車で迎えに行くと、翔にいは複雑な顔をして車に乗ってくれた。
「おまえ、これ…買ったの?」
「うん。翔にいの車は、おじさんとこのヒロくんが乗ってるし…就職したらどうせ買わなきゃいけなかったしね」
「そんな金…どこから…」
「ん?すげえバイト頑張ったもん」
「自分で買ったのか!?」
「だって俺、もともと趣味が貯金だし…」
また複雑な顔をして押し黙ると、車窓から外を見た。
「…無理してんじゃねーよ…大学生のくせに…」
「翔にいこそ…おっさんの癖に、口うるさいんだから…」
「おまえ、生意気」
「もう社会人だもん」
ぶすっとしてしまった翔にいが、なんだか可愛かった。
「…家、行ってみる?」
翔にいは暫く黙っていたけど、外に顔を向けたままこくんと頷いた。