第6章 夏の終わり
驚いて上げた顔を、じっと見つめた。
あの日から、窶れたまま…
更に細くなった顎に指で触れた。
「去年の夏…翔にいが俺にしたこと…」
「え…?」
「忘れることなんてできない」
ただ、寂しさを埋めるための行為だったのかもしれない。
誰でも良かったのかもしれない。
あの人の…
翔にいには触れることができないあの人の、身代わりだったかもしれない。
「傍に…居たいんだ」
それでも、いいんだ。
俺のこと好きじゃなくても。
なんでもいい。
俺が、翔にいの傍に居たいんだ。
「バカ…一体いくつ離れてると思ってんだ…」
「十個と…あとわかんねーや…」
「男同士だぞ…」
「男同士なのにあんなことしたの、翔にいじゃん」
「それは…」
「言っちゃおうかな…親戚のおじさんおばさんたちに」
「和也っ…」
「それが嫌だったら」
くいっと顎を持ち上げた。
「俺と一緒に暮らして?」
じっと見ていると、潤んでくる瞳。
真っ赤になった鼻の頭に、キスをした。
「和也…」
ぽろりと溢れた涙を見て、唇にキスした。
この日から、翔にいはめきめき回復した。
リハビリも頑張って、薬物中毒の克服のための会にも入った。
俺も、就職活動を頑張って、内定を取り付けることができた。
夏が、終わる───