第6章 夏の終わり
「じゃあ…行ってくる」
靴を履くと、手近なものだけ詰めた小さめのボストンバッグを持って立ち上がった。
「気をつけてね!おじさんによろしくね」
「うん」
「ちゃんと栄子おばさんには、お土産とお金渡すのよ!一番に!」
「わかってるよ…」
「着いたら連絡するのよ!あんた肝心なとこ抜けてるから…」
「わあってるってば」
かあちゃんは首にかけたタオルで額の汗を拭った。
「…それと、翔くんにも…」
「…うん…」
ちょっとだけふたりで黙り込んでから、玄関を出た。
あれから、一年過ぎた。
大学も四回生になって、就職活動をかあちゃんの故郷でしてる。
去年から何度も県の就職説明会や合同企業説明会なんかで既に来てるから、だいぶ地元の地理は覚えた。
宿は、おじさんの家だ。
長丁場になってもいいように、かあちゃんが頼んでくれた。
単位は取れるだけ取ってて卒業ラインにはあとちょっと。
毎日のバイトや教習所に通ってた割には、頑張ったと思う。
車の免許が、ついこの前取れて。
安い中古車を買って就職活動をする。
残りの夏休みを利用して、面接を受けまくる予定だ。
東京駅まで出て、新幹線で向かう。
駅に着いたら、大野さんが迎えに来てくれていた。
「和也くん!こっち!」
改札の向こうに、笑顔で手を振る大野さんの姿が見えた。
びっくりするほど、日に焼けて真っ黒だった。