第6章 夏の終わり
炎に照らされた家の前の広場には、相葉先生に羽交い締めにされる翔にいの姿があった。
「翔っ…中に人がいるの!?」
「潤っ…潤ーっ!」
泣きながら相葉先生を振りほどこうとしている。
「相葉先生っ…」
「あ、和也くんっ…中に人がっ…」
「違いますっ…それは、違うんですっ…」
「え…?」
遠くから消防車のサイレンが聞こえる。
少し離れた近所の家からも人が出てきて、広場の前に集まってきている。
「おーいっ…雅紀っ…」
その人垣をかき分けて、大野さんが戻ってきた。
「翔はっ…!?無事!?」
「ああ…」
「いやっ…離してっ…」
暴れる翔にいを相葉先生とふたりで押さえつけた。
「翔にいっ…」
「潤がっ…中にいるっ…いかせてっ…」
「居ないっ…もう、あの人は居ないんだっ…」
大野さんが怪訝な顔をして俺の肩を掴んだ。
「和也くん、潤って誰っ?中に人が残ってるの!?」
「それは…」
「潤っ…潤っ…」
翔にいの体に力が入った。
ぎゅっと押さえつけると、もっと力が入って跳ね飛ばされた。
「翔っ…!」
相葉先生が、地面に倒れ込むように翔にいを押さえつけた。
「和也くんっ…」
大野さんに抱え起こされて起き上がると、翔にいは地面に転がって泣きながら、燃え盛る母屋に向かって手を伸ばしている。
「俺もっ…連れて行ってっ…潤っ…」
木の爆ぜる音が段々大きくなり、炎が轟音になる。
振り返ると、母屋が大きく傾き
瓦屋根が大きな音を立てて崩れ落ちた
その紅蓮の炎の中
あの人が
微笑みながらこちらを見ていた
”…あとは…頼んだよ…和也…”