第6章 夏の終わり
「智…」
「12年前…やっぱり一人にするべきじゃなかったんだよ…」
相葉先生が大野さんの肩に手を置いた。
「あまり考えすぎるな…俺たちにはあれ以上どうしようもなかったよ…」
「だって…雅紀…」
「どうしようもなかった。俺たちには…」
ふたりは黙り込んでしまった。
「あの…12年前って…」
「ああ…翔のご両親が亡くなったときだよ…」
「そう、ですよね…」
「…そっか…和也くんも来てたはずだよね…お葬式…」
あの頃俺はまだ小学生で…
葬式には来たけども、翔にいがどうだったかなんて、よく覚えてない。
覚えているのは、あの家から俺たちが帰るときの、翔にいの手を振る姿だった。
いつまでも、いつまでも…
俺たちの乗った車が見えなくなるまで…翔にいは手を振っていた。
「あの後、翔はちょっと不安定になってね…」
「でも、俺たちもあの頃は忙しくて…ずっと傍にはいられなかったんだ」
「俺は、まだ研修医で県外に居たし、智も農業研修でしょっちゅう県外まで行ってたしね…」
「だから、誰もあの頃の翔を支える人が、居なかったんだ…」
翔にいは、たった一人になったんだ
あの広い家で…たった一人に…
それが…アヘンに手を出した理由…?
「もっと、翔と一緒に居ればよかった…」
「智…」
「そしたらこんなことにならなかったかも…」
ふっと、相葉先生は息を吐き出した。
「違うよ…」
そのまま、大野さんの肩から手を外した。
「翔が…弱かったんだよ…」