第6章 夏の終わり
なにかを、伝えたいんだ。
でも、俺にはわからない。
その人は諦めたように視線をまた翔にいに落とすと、廊下を指差した。
仏間を出ろってことだろうか…
足が震えて、うまく立ち上がれない。
やっと立ち上がれたら、その人の姿は仏間からは消えていて。
廊下を見ると、その人が立っていた。
慌ててその人の後を追う。
廊下に出ると、またその人の姿は無く。
振り返ると、廊下の先に白くぼんやりとした姿を浮かび上がらせていた。
立っているのは、翔にいの部屋の前
なんとかそこまで歩いていくと、また部屋の中を指差した。
襖を開けて中に入ると、むせかえるほどの甘い匂い。
さっきの何に使うのかわからない壺と缶が転がってる。
振り返ると、その人は廊下に立ったままこちらを見ていた。
悲しいような…苦しいような顔をして
右手で、自分のシャツの胸を掴んでいた
「どう…して欲しいの…?」
そう問いかけると、また口を動かした。
でも、やっぱり声は聞こえない。
「なに…?教えて…」
不思議と、もう怖くなくなっていた。
この人は、俺たちの血縁で…
そして、翔にいを見る目がとても心配そうで…
危害を加える気がないんだと思った。
何か必死に俺に伝えようとしてるって。