第6章 夏の終わり
ぐるぐる…ぐるぐる…
熱で頭の中が回ってる
点滴を受けながら爆睡してしまったみたくて、気がついたら翔にいの家に帰ってた。
座敷に敷いた布団の中から庭が見える。
縁側の障子と窓が開け放たれてて、涼しい風が入ってきてる。
もう空は茜色に染まってた。
カナカナカナと蜩が鳴いて、山に帰る鳥の声も聞こえた。
翔にいがホースで庭木に水を遣っている。
サラサラとした水の音を聞きながら体を起こすと、縁側にあの人が座っていた。
「…あの…」
ガサガサだけど、なんとか声が出た。
でも、その人はじっと庭の翔にいを眺めていて、こちらを見ようとしなかった。
誰なんだろう…
でも、どこかで見たことがあるんだよな。
懐かしいというか…
どこで見たんだろう。
もしかして、相葉医院みたいに小さい頃に行った先で会ってたりするのかな。
立ち上がろうとしたら、頭がガツンと痛んだ。
点滴でだいぶ楽にはなったとはいえ、やっぱり風邪を引いてる。
「うう…」
頭を押さえてうずくまってたら、翔にいが縁側から上がってきた。
「和也、起きたのか…大丈夫か?」
俺のそばに来ると、背中をさすってくれる。
「翔にい…あの人…」
誰?って聞こうとしたけど、もうあの人は居なかった。