第6章 夏の終わり
なんとか台所で水を飲んで、また座敷に戻る。
途中トイレに行きたくなって。
古い家だけど、トイレは改装してあって水洗になってる。
個室には窓がついてて、昼間の光で眩しいくらいだった。
用を足して個室を出ると、ふとあの甘い匂いが漂ってきた。
思わず翔にいの部屋のほうに目を向ける。
廊下の奥は両側が部屋になっていて、窓がないから暗い。
トイレの中は眩しかったから、目が慣れなくてよく見えない。
「え…?」
翔にいの部屋の前に、白くぼんやりした影が見えた。
こんな真っ昼間に、幽霊?
それとも、熱があるから幻覚でも見てるのか?
その白いぼんやりとしたものは、翔にいの部屋を見つめてるように見えた。
じっとりと背中に汗が滲んでくる。
音を立てたら、こっちに来そうで。
怖くてその場から動けない。
そのうち、暗さに目が慣れてくると、その白いぼんやりしたものは、人のような形に見えてきた。
「っ…」
まさか泥棒?
そう思ったら、声が出そうになって思わず口を手で塞いだ。
その瞬間、その白い影が揺らめいた。
こちらを振り返った気がした。
男だ。
「あ…?」
あの花壇に居た、男の人。