第2章 宵待月
――宵闇は、いつも以上に濃かった。
昼間は残暑が残るとはいえ、9月の夜ともなれば、あたりはすっかり秋の空気である。
虫たちの声が、そこかしこから湧き上がり、かがり火の燃える音と相まって、一帯を包み込んでいた。
街外れにある古刹を借りきり、急ごしらえでしつらえさせた猿楽舞台の最前列、
いうところの貴賓席には、どうにもこの場に不似合極まりない、二人の男が並んで腰掛けている。
大谷「刑部」吉継、そして、「凶王」石田三成である。
――やれ、これで、何とか持ってくれればよいのだが。
刑部、もとい大谷吉継は、輿の上に落ち着かぬ尻を載せながら、隣に目を閉じて立たずむ男、
――石田三成の横顔を盗み見た。
三成は、腺病質なその面差しに、時折隠しきれない苛立ちを浮かべながら、
「刑部。まだか」
と、短く聞いた。
どう考えても、これからはじまる公演を待ちかねている、というわけではなさそうだ。
さっさと済ませろ、と言外に訴えたいのだろう。
「三成よ、そう急くな。まだ上演時刻までは、半刻近くあるのだぞ」
ため息をこらえながら、大谷は隣で暴発の時を待つ不発弾を、なるべく「丁寧に」なだめた。
秀吉公が亡くなられてからというもの、三成の暴走には時々、歯止めが利かなくなる部分がある。
近頃は、三成生来の冷徹な気性に、増幅したまま行き場を失った残虐性が加わって、
さしもの大谷の目にも余る程だ。