第2章 宵待月
この表情を、大谷は何度か目にしたことがある。
――それは常に、戦場において。
彼が最も昂ぶった時によく見せるこの表情は、見様によっては、満面の笑みに見えなくもない。
そしてその笑顔を張り付けたまま、幾百、幾千を擂り潰すように殲滅してきた三成の姿を、
大谷はよく知っていた。
大谷自身、三成の浮かべる様々に苛烈な顔色の中で、もっともこの表情を好んでいた。
目の前の敵を屠り、満身を鮮血に染め、血刀を一振りするごとに、
この笑顔もまた、三成のむごたらしさとともに深みを増していく。
ひどく残忍で、ひどく美しい。
このような状態の三成の前に、あの小娘、確か●●とかいうあの踊り子を引きずり出したらどうなることか。
舞から離れた今、元のささやかな姿に戻った●●とやらを、凶王の前に放り出したら。
猛獣の前に、餌を放り捨てるように。
深く考えずとも、あの娘がどのようなことになるかは、はっきりわかることだった。
だからこそ、大谷は答えた。
限りなく優しい声音で、その背を撫でさするかのように、
聞かぬ子を慰め諭すように、答えた。
「あい、分かった、三成よ。」
そのさらしに覆われた口元を、これ以上ないというほどに釣り上げて、
しっかりと大谷は答えた。
「首に縄をかけてでも、主の寝所に引きずってきてやろう程に。」
流れる雲の隙間から、亀裂のような三日月がその光を落とした。
うっそりと顔を上げる三成の視線に、大谷は、ねばりつくような笑顔で返した。