第1章 始まりは突然に
気分転換をしようと部屋を出てテキトーに歩いていると、あのマネさんの香りを付けたクロに出くわしてしまった。
「寝れないのか?」
「ん……うん……」
「俺も♪」
「でも……そろそろ戻ろうと思ってたとこだから、見つかってもまずいし?」
「1人で大丈夫か?」
「ここまで1人だったし平気、クロも見つからないうちに早く戻りなよ?」
「わかってるよ」
クロの前を通った時、舌打ちしたように聞こえた。
「なぁ……」
「ん?」
呼び止められ、振り返れば──
今までに見たこともないような顔でこちらを見下ろすクロ。
「ど……したの……?」
その顔に気圧され、うまく声が出せない。
「木兎と、なんかあった?」
「えっ?」
思いもよらない名前が出てきた。