第1章 始まりは突然に
「こっから歩ける?」
「ん……」
「じゃーな、なんかあったらまた頼れよ?」
「……それは考えとく」
「へへっ、それでいいよ、んじゃな!」
強引に身体を触ってきたのに、私の涙でそれは止み、あんなに罵倒した私をここまで運んでくれた。
木兎は、ホントは優しい人なのかな……なんて、少し見直してしまった。
部屋へ入ると、クロとどこかへ行ったあのマネさんの姿はやはりなかった。
私は部屋の隅で下着を装着し、布団を被ったがなかなか寝付けずにいた。
消灯時間がだいぶ過ぎてからクロの香りを纏ったマネさんが帰ってきた。
しばらくするとスヤスヤと寝息が聞こえてくるが、私の眠気は一向にやってこない。