第1章 ~ATOBE KEIGO~
暫く歩き、周りの声も気にならなくなったころ、急に彼女が足を止める
「ねぇ、自己紹介しよ?」
「アーン?」
「だって私、あなたのコト知らないし…」
「…本当に知らねぇのか?」
「知らないよ。転校してきたばっかなんだから」
表情には出さないが、内心少し驚いていた
この学園には俺を知らないヤツなんていない。転校生だとしても知らないはずはない
転入前に、学園の説明を受ける際に必ず、跡部の名前は聞くからだ
この学園に跡部財閥は多額の出資をしている
だから知らないはずは…
「お前…記憶力は?」
「え?悪くはないと思うけど…」
まぁそうだろうな、コイツは転入の試験でほぼ満点に近い成績だった
ジッと黙って見つめていると、ふいに顔を覗きこまれる
「ねぇ、訳分かんないこと言ってないで自己紹介っ!!私は…」
「」
「え?」
「、父、母の三人暮しで父親の仕事の都合で東京へ。163cmの42kg、スリーサイズは…」
「ち、ちょっと待って!?な、何で私のこと…」
「俺を誰だと思ってやがる。そんなの一度プロフィールみたら覚えんだよ」
「そうじゃなくて!!どうして生徒の貴方が知ってるの!?」
「あ?生徒会長なんだから当たり前だろうが」
「生徒会長?あ、もしかしてこの学園の…」
ようやく分かったか
口端を上げるも次に返ってきた言葉にまた口を結ぶ羽目になる
「跡部…何君?」
「あ?景吾だが…」
「そうだ、跡部景吾!!さっき侑士くんが跡部って言っててドコかで聞いたことあると思ってたんだよね」
納得したように何度も頷くコイツに俺は目を丸くした
コイツは…俺が跡部財閥の息子だと知って、何も変わらないのか?
別に様を付けろとか、敬語で話せとかは思わねぇが…
「ハッ…」
喉で笑う俺を不思議そうに見つめるコイツの目はまっすぐで
、いつの間にか、朝からのイラつきはすっかり消えてしまっていた
面白れぇじゃねぇの…
次第に不安げな表情を浮かべるコイツが面白くて、俺はまた喉をくつくつと鳴らした