第6章 白き手指で描かるる流線
「お疲れ様でございました」
針束をことりと置き、床に三指を着いた智が、潤に向かって頭を下げ、その言葉を合図に、翔は組んでいた腕を解いた。
「どれ…」
智は座していた場所から幾分か下がり、翔にその場を譲った。
翔は潤の肌にかけられた綿布をそっと捲り、彫ったばかりの筋をじっくりと、そしてまじまじと見た。
「いかが…でございますか?」
言葉もなく、ただただ眺めるだけの翔に、元々気の小さい智は、不安を感じてしまう。
「何か至らぬことでも…?」
「いや、良く出来ている」
翔の言葉に、智の表情が一瞬にして明るくなる。
「まだまだ荒削りではあるが、これなら上出来だ」
「良かった…」
心底安堵したように笑顔浮かべた智は、潤の口から轡を外し、手拭いで潤の額に浮かんだ汗粒を拭った。
「悪ぃな、あんたにこんなことを…」
「いえ、とんでもございません」
言いながら智は、起き上がろうとした潤の背中に、そっと手を添えた。
「お身体の塩梅はいかがですか? 痛くはありませんか?」
「ああ、これくらいなら辛抱出来なくもねぇよ」
「本当に?」
「ああ、本当だ」
智を安心させようと、潤は再び滲み始めた汗を光らせながら、智に微笑みかけた。