第13章 偽りを語る唇… 抗う心…
「何してんだい、まだ横になってないと…」
智の額に自身の額を宛て、〝うん〟と頷いた和也は、智の腕を肩に回した。
ところが…
「いいえ、違うんてす…」
和也は腰に入れた力をふっと抜くと、智の横に腰を下ろした。
俯いたまま、小さく息を吐き出した智を覗き込んだ和也は、眉間に深い皺を刻み、明らかな苦悩を浮かべる表情を見て、全てを察したかのように、智よりも更に深い溜息を落とした。
「そっか…、あの人がね…」
「ええ…」
「それで、どんな顔したら良いのか、ってとこかい?」
和也の問いかけに、智は首だけでこくりと頷くと、再び息を吐き出した。
「だって私はお師匠さんを裏切ってしまったのですから」
「じゃあ何か、お前さんは潤とのこと、後ろめてぇ…とか、思ってんのかい?」
「そ、それは…」
潤さんと身を重ねてしまったことを、後悔しているわけではない。
寧ろ、私の想いに応えてくれたことを、嬉しいとさえ思っている。
でも…
「普段通りにしてたら良いんじゃないか?」
「え…?」
顔を上げ、小首を傾げる智に、和也は悪戯な笑顔を向けた。
「あったことを無かったことには出来ねぇし、忘れることも出来ないだろ?」
「え、ええ…」
「だから、普段通りで良いんじゃないか?」
和也の言っていることが益々分からない智は、釜から上がる湯気をぼんやりと眺めた。