第6章 白き手指で描かるる流線
潤が笑顔を向けると、昌弘は安堵の表情を浮かべ、何度も頷きを返した。
「仲が宜しいのですね」
「仲がが良いって言うか…、親子だからな」
「親子…ですか…」
潤が何気なく言った一言に、智の表情が一瞬にして曇る。
その表情を見て漸く、智には親がいないことを思い出した潤は、どうにか智の気を晴らそうと考えあぐね…
「で、でもよぉ、あんたには翔の兄貴がいるじゃねぇか」
智と翔を交互に見ながら言った。
「お師匠さんが…?」
「そうだよ。こんな立派なお方が、あんたの傍にいるじゃねぇか」
「でも私とお師匠さんは、その…」
さっきまで曇っていた顔を途端に赤く染め、墨で汚れた指差しをもじもじとさせるだけで、続く言葉の出てこない智に、見兼ねた職場が助け舟を出した。
「さあ、そろそろ続きを始めるとしようか」と。
「この分だと、明日になってしまうからね」
「まあ、それは大変…」
慌てた智は、再び身体を横たえる潤の背を支えようと、手を伸ばした…が、一瞬早く翔の手が潤の背を支えたのを見て、伸ばした手を引っ込めた。
翔は気付いていた。
実際には、初めて二人が顔を合わせた時からだが、潤の智を見る目には、明らかな恋慕の情が浮かんでいることに…