第6章 白き手指で描かるる流線
潤がゆっくり身体を起こすのを、智は咄嗟に背中に手を添え、支えた。
「辛くはありませんか?」
不安そうに潤の顔を覗き込む智に、潤は眉間に微かな皺を寄せながら、笑って見せる。
「これくらいへっちゃらだよ」と。
それを聞いた智はほっと胸を撫で下ろし、手元にあった手拭いで、そっと潤の額の汗を拭った。
その時、一層距離の近くなった二人の視線が絡み、潤も…そして智も咄嗟に視線を逸らした。
どうしたのかしら、このように胸の鼓動が早く打つなんて…
こんなの…、初めて。
智は胸の音が潤に聞こえてしまわないよう、両手で胸を押さえた。
そして潤もまた、智と同じように胸を押さえ、顔をあかした。
そこへ翔が水で満たした茶碗を運び、一つを潤に、もう一つを智の手に握らせた。
「思いのほか平気そうだな」
「ええ、そりゃもう…」
「そうか。それなら良かった」
翔が安堵したのは、勿論潤の予後の心配のためでもあるが、何より智の初めての施術が上手く行っていることに、だ。
翔はそっと智の頭を撫でると、親が向けるのとはまた違う、深愛をこめた目で智を見つめた。
「あ、翔の兄貴、父ちゃんは…」
「ああ、昌弘ならあそこで一身に手を合わせていたよ」
翔が土間を指差すと、潤はその指の先を追うかのように、顔を土間へと向けた。