第6章 白き手指で描かるる流線
智の手がゆっくりと動き出し、墨を乗せた針先が下絵の線を辿りながら、着実に、そして確実に刺し込まれて行く。
身体に何本もの針が刺されるわけだから、当然それなりの痛みが伴うわけで…
誤って舌を噛まないようにと轡(くつわ)を噛ませてはいても、口の端からは自然と呻きが漏れてしまう。
見た目に反し、痛みにも、そして気もそう強くはない潤にとっては、耐え難い痛みであることは違いない。
それでも、時折薄目を開けた隙間から見える智の真剣な表情を目にすると、不思議と痛みが薄れて行くような気がしていた。
やっぱりこの人は、今までおいらが目にした何よりも綺麗で、なのに愛らしくて…
いつかこの人をおいらだけのもんに出来たら…
そしたらどれだけ幸せだろうか。
絶え間なく続く痛みに堪えながら、ぼんやりと考えていた潤は、自分が途方もない夢を思い描いて居ることに気付き、はっとして瞼を持ち上げた。
それに気付いた智は、針を刺す手を止め、少々不安気な表情で潤を見下ろした。
「もしや、粗相を…?」
「い、いや、何でもねぇ。続けてくれ」
「はい。では、もし粗相がありましたら、遠慮なく言って下さいね?」
「お、おぅ…」
潤は再び轡を噛み瞼を閉じた。