第6章 白き手指で描かるる流線
額に浮かんだ汗を拭い、智が翔を見る。
翔は小さく頷くと、智に筋彫り用にと仕立てられた、真新しい針束を差し出した。
智は針束を受け取り、ごくりと息を飲むと、針束の先を潤の肌にそっと宛がった。
ところが…
智の手はぴたりと止まったままで、一向に動き出す気配がなく、それどころか今にも泣き出しそうな、縋るような目で翔を見ている。
それに気付いた翔は、智の手から一旦針束を取り上げると、微かに震える手を両手でそっと包んだ。
「お師匠…さん…、私は…」
いくら気を落ち着けたところで、やはり恐怖心までは拭えなかったのだろう、潤を前にした途端、恐ろしくなってしまったようだった。
「大丈夫、恐れることはないよ」
「でも…」
「私が傍についている」
翔は智の手に再び針束を握らせると、智の背後に回り、後ろから針束を握る智の手に、そっと自身の手を添えた。
「さあ…、目を閉じて…」
翔に言われ、智は静かに瞼を閉じ、精神を統一するかのように、息を深く吸い込んでは吐き出し、また吸い込んでは吐き出しを何度か繰り返した。
そうするうち、智の胸を満たしていた不安の色は消え失せ、意を決したような…強い決意を秘めた表情に変わった。