第6章 白き手指で描かるる流線
一通りの説明を聞き終え、昌弘は土間へと降りた。
心細気な潤の顔を見ると、後ろ髪を引かれる思いはあったし、昌弘自身見覚えのある光景ではあったが、どうしてもその場にいる気にはなれなかった。
やはり、自分で望んだこととは言え、自身が受けて来た痛みを、今度は息子の潤が受けることになるのは、居た堪れない気持ちにもなるのだろう。
口には出さないが、昌弘の親心でもある。
そんな昌弘の心情を分かってか、土間と仕事場の間の襖を閉める間際、翔は昌弘の肩にそっと手を置き、小さく頷いた。
「さて、そろそろ始めようか」
翔の声をきっかけに、潤は着ていた法被を脱ぎ、腹当ても取ってから、布団の上に身体を横たえた。
そして智は着物の袂をたすき掛けにし、いつもよりも高い位置で結わえた髪を、更に丸く纏め上げ、顔も知らぬ母の形見だと言った手拭いで結わえた。
筆を手に取り、自身が描いた絵図を元に、そのまま潤の身体に写して行く。
その筆捌きは、初めて人の肌に描いているとは思えない程流暢で…
口にこそ出さないが、その動きの滑らかさと、潤の肌に描かれて行く絵図の美しさに、翔は驚きを隠せず、目を見張った。
そうして絵図を写し終え、智がことりと筆を置き、ふっと息を吐き出した。