第6章 白き手指で描かるる流線
昼を少し回った頃、昌弘と潤が連れ立って翔の元へ訪れた。
二人共に少々顔が強ばっていたが、潤の手に下がった鳥籠を見るなり、智が目を輝かせ、「まあ!」と大きな声を上げるものだから、すぐに表情は和らぐ。
「その籠はもしや〝おすず〟の?」
「おす…ず? あ、ああ、そう、そう〝おすず〟の…」
雀だから〝おすず〟…その安直過ぎる名付け方に、潤は思わず吹き出しそうになってしまうが、ぐっと堪えて籠を智に差し出した。
「まあ、なんて立派なこと。きっと〝おすず〟も喜びます。ね、お師匠さん?」
「あ、ああ、そうだな」
突然言われ、翔はあたふたとした様子で返事を返す。
当然だ。
雀の名が〝おすず〟だったという事実を、翔は今の今まで知らなかったのだから。
翔が驚くのも無理はない。
「さて、それでは始めようかね 」
翔が一つ咳払いをすると、和んだ筈の板間に再び緊張が走った。
「今日行うのは、〝すじ彫り〟と言ってね…」
そこまで言って翔は、しきりに首を傾げる潤が気になった。
「そうだな、大工仕事に例えると、家屋敷を建てる前の骨組み…と言ったところだろうか…」
「ああ、そういうことか」
彫り師の仕事は分からないが、大工仕事なら幼い頃より昌弘の傍で長いこと見てきたから分かるとばかりに、潤は自身の膝をぱんと叩いた。