第6章 白き手指で描かるる流線
「だったらそんな葬式みてぇな顔すんじゃねぇよ」
言われて潤は一瞬はっとはしたものの、すぐに不安の色を浮かべ…
「でもよぉ、父ちゃん…」
情けない声を上げた。
「痛ぇんだろ? その…針でこう…さ…」
潤は箸を針代わりに、墨を入れる素振りをして見せ、その後に受けるであろう痛みを想像して身を震わせた。
「おいらに耐えられるだろうか…」
潤が痛みに滅法弱いことを、昌弘が知らない筈はない。
それでもあえて…
「ああ、ちびるくれぇ痛てぇよ」
わざと大袈裟に言って、昌弘は潤を脅した。
その言葉に、やっぱりと項垂れてしまう潤に、昌弘は「でもよぉ」と続けた。
「確かに痛てぇよ? でもな、痛てぇのはお前ぇだけじゃない筈だぜ?」
「どういう意味でぃ?」
首を傾げる潤。
昌弘は一度は置いた湯呑みを再び手に取ると、残っていた酒を一滴残さず飲み干した。
「お前ぇ、考えてみたことあるか? 人様の身体に針を刺すってことをよ」
潤は黙って首を横に振る。
「そりゃとんでもなく恐ろしいことだとは思わねぇか?」
そう言って、昌弘は自分にはとても出来ないと、首を横に振り…
「今頃、智坊は酷く恐ろしい思いをしてることだろうよ…」と、潤と同じように期待と緊張の狭間にいるであろう智に思いを馳せた。