第6章 白き手指で描かるる流線
「ふふ、暖かい…。まるでお師匠さんの腕に抱かれているみたい」
智は羽織りの袖をそっと頬に宛てると、何度も頬を擦り当てた。
「さて、そろそろ休むとするか」
「でもまだ片付けが…」
夕餉の後片付けが済んでいないことがどうにも気にかかる智は、翔とは全く逆の方へと足を進めた。
ところが、翔は智の手を引き、軽々と智を抱き上げてしまう。
「私はまだ仕事が…」
「構わん。明日にすれば良い」
「で、でも…」
翔の腕に抱かれても尚、洗いかけの茶碗を気にする智に、翔はやれやれとばかりに溜息を落とした。
「分かった、片付けは私がしておくからお前はもう休みなさい」
「お師匠さんが…?」
「ああ、そうだ。何か不満か?」
「いえ、そういうわけでは…」
智は首を横に振りながら、随分前のことを思い出していた。
そう、あれは私が風邪をひいて、数日寝込んだ時のこと…
お師匠さんが家の事をしてくれたのだけど、それはそれは酷いもので。
おちおち寝てなどいられなかった覚えが…
あの調子では、茶碗がいくつあっても足りないのでは…
智は茶碗の行く末を案じながらも、一度言い出したら頑として意を返さない翔の性格から、渋々翔の申し出を受けることにした。