第6章 白き手指で描かるる流線
顔を膨らす智を抱き、翔は庭へと出た。
「明日は智にとって、最も大切な日だから、身を清めてやらないとな」
「身を…ですか?」
「ああ、そうだ」
翔は智を井戸端に立たせると、着物を脱がせ、襦袢だけの格好にさせた。
「私が最初に就いたお師匠さんはね、とても信心深いお人でね…」
何時になく優しい口調で智に語りかけながら、翔は井戸の水を汲み上げる。
「墨を入れる前には、まるで神事であるかのように、滝に打たれておられてね…」
「まあ、滝に…?」
滝に打たれることを想像して、身体を強ばらせる智。
そんな智に、翔は木桶の水を肩から流しかけた。
「お師匠さんも、滝に打たれたのですか?」
両膝を地面に着け、両手を胸の前で合わせた智が、水の冷たさに身体を震わせながら、翔を見上げた。
「私は滝行こそしなかったが、墨を入れる前には、良くこうしてお師匠さんに身を清めて貰ったものだよ」
師匠の教えを、数年…いや数十年経った今でも、翔は守っているのだと、智に話して聞かせた。
そして最後の一杯を智の背にかけ流すと、濡れた襦袢を脱がせ、乾いた手拭いで智の身体を拭いた。
「すっかり冷えてしまったな」
水を浴びせられ、冷たくなった智の身体に触れた翔は、迷うことなく自身の羽織りを脱ぎ、智の肩にかけた。