第5章 抱き続ける諦念と愛惜の想い
二人が雀を愛でる間、板間の二人は、注いでは飲み、また注いでは飲むを繰り返していた。
ただ、二人共相当に酒の覚えがあり、少々のことでは酔うはずもなく…
世間話に花を咲かせている。
そして意識は常に、庭先で仲睦まじく肩を寄せ合い、時折視線を交わしては笑い合う年若い二人に向けられている。
「それで、最近はどうなんだい?」
「何が…です?」
「潤坊も歳頃だし、お前さんもそろそろ先のことを考えた方が良くないかと思ってね」
もし潤が嫁を貰って長屋を出ることにでもなれば、当然昌弘は一人になる。
父一人子一人で暮らす昌弘の末を案じてのことではあったが…
「そういう翔の兄貴はどうなんでぃ?」
まさか自身に同じ質問が返って来るとは微塵も思っておらず…
「そうだねぇ、どうするかねぇ…」
歯切れ悪く、苦笑を浮かべることしか出来ない。
それもそうだ、翔と智の関係は、実の親子ではないことを抜きにしたとしても、普通の親と子の関係でもなければ、人に胸を張れる関係でもないのだから。
そして昌弘もまた、潤の胸の内を知っているだけに、中々答えを出すことが出来ず…
気付けは、お互い黙りこくったまま、茶碗に残った僅かな酒を、ちびちびと飲むことしか出来なかった。