第5章 抱き続ける諦念と愛惜の想い
「そろそろ…」と、昌弘が空になった茶碗を板上に置く。
ところが翔はまだ飲み足りないようで…
「もう少し良いじゃないか。酒ならまだ…」
昌弘を引き止めようとするが、昌弘は両手で尚も酒を注ごうとする翔を制した。
「これ以上は流石に…。何せ病み上がりの身なんで…」
昌弘は申し訳なさそうに頭を下げると、庭先で智と雀を間に笑い合う潤を呼んだ。
「そろそろ帰ぇるぞ」と。
その声に振り向いた潤は、僅かな寂しさを感じながらも腰を上げ、膝に着いた土を手で払った。
「知らせ…待ってるからよ」
「ええ…」
瞼を伏せ、俯いてしまった智も、どことなく寂しげな様子が浮かぶ。
「そ、そうだ、今度来る時までに、もっと立派な籠作ってやるからよ、楽しみにしとけよな」
「まあ、これでも十分立派なのに、これよりも…?」
潤の咄嗟の思いつきに、途端に目を輝かせ、寂しげな表情から一転、嬉しそうに顔を綻ばせる智。
そんな智の様子に、潤は小指を差し出すと、智は潤の小指に自身の小指を絡めた。
「約束な」
「ええ、約束です」
二人は約束を交わし、互いの指が離れるその瞬間まで、見つめ合い、微笑み合った。
『抱き続ける諦念と愛惜の想い』ー完ー