第5章 抱き続ける諦念と愛惜の想い
試しに…と、智は更に雀と近く目を合わせる。
「ええ、まあ、それは大変…。それで?」
到底雀と言葉を交わしているとは思えず、一見すれば独り言のようにも見聞き出来なくもないが、当の智は大真面目で…
「どうしましょう、どうやらおっ母さんとはぐれてしまったようで…」
雀を手に載せたまま、智は潤の顔を見上げた。
当然、雀と会話が出来るなんて信じられない潤は、どう答えるべきが考えあぐねた挙句、ぱんと両手を叩いた。
「じゃあ、あんたがおっ母さんになってやったらどうだぃ?」
「私が…ですか?」
「あ、いや、おっ母さんじゃなくて、お父つぁんか…」
一見すれば女子にも見える智だが、自分と同じ男だということを思い出した潤は、すぐ様訂正したが、智は満更でも無い様子で…
「私がおっ母さん…。私が…」
雀の背をそっと指で撫でては、雀に向かって微笑みかけている。
その様子に、潤の胸が一層大きく跳ね上がる。
「愛らしいのはあんたの方だ…」
思わず口から漏れてしまった一言に、潤は咄嗟に口を手で塞いだが、雀に夢中の智の耳には届いていなかったようで、潤はこっそりと胸を撫で下ろした。
「そ、そうだ、籠…作ってやんねぇとな…」
「籠…ですか?」
「ああ、籠だ」
そう言って潤は、庭に落ちていた枝を数本集め、智に紐を持って来るようにと言った。