• テキストサイズ

T・A・T・O・O ー彫り師ー【気象系BL】

第5章 抱き続ける諦念と愛惜の想い


まさか頭を下げられるとは思ってもいなかった潤は、慌てた様子で智の肩を押して顔を上げさせた。

「本当はよ、もっと早く返せば良かったんだけど…」

どこの誰だかも分からず、探す手立ても無かった潤にとっては致し方のないことではあるが、それでも後悔の念は少なからずある。

「いえ、こうして私の元に戻って来たのですから…」

胸に宛がった手拭いを、それはそれは大事そうに握り締める智。

その様子に、潤は「なあ…」と尋ねた。

「そんなに大事なもん…だったのかい?」と。

すると智は長い髪が揺れる程大きく頷き、「ええ」と答えた。

「実はこの手拭いは、おっ母さんの忘れ形見でして…」
「えっ…?」
「私は赤子の頃にそこの門の前に捨てられていた故、おっ母さんの顔は知らないのですが、お師匠さんが仰るには、この手拭いが一緒に添えられていたとか…」

見も知らない産みの親に思いを馳せているのか、智の目が僅かに潤んている。

「そんな大事なもんとは知らず、おいら…」

過ぎてしまったことを悔いても仕方の無いことだとは知りつつも、潤は智の厚意を無下にしてしまったことを、今更ながらに後悔した。

そして今度は潤が、智に向かって頭を下げた。

「悪かった」と。
/ 200ページ  
スマホ、携帯も対応しています
当サイトの夢小説は、お手元のスマートフォンや携帯電話でも読むことが可能です。
アドレスはそのまま

http://dream-novel.jp

スマホ、携帯も対応しています!QRコード

©dream-novel.jp