第5章 抱き続ける諦念と愛惜の想い
濡れた手を拭こうと、袂や懐を探ってみるが、運悪く手拭いを持ち合わせておらず%
「今手拭いを…」
土間に駆け込もうとした智を、「待ってくれ」と潤が呼び止めた。
そして半纏の懐から綺麗に畳まれた手拭いを取り出すと、それを智に差し出した。
「これ…は?」
首を傾げる智に、潤は手拭いを広げて見せた。
「この手拭い、あんたのだろ?」と。
すると智の目が見開かれ…
「まあ、これは…」
見覚えのある手拭いを手に取り、智は記憶を遡った。
そして…
「もしや貴方は、あの時の…?」
全ての記憶を思い出した智は、見開いた目を更に大きくさせ、潤と手拭いとをこうごに見た。
「もう戻らない物と諦めてましたが、そうですか…貴方が…」
幼い頃気に入りだった手拭いが手元に戻ってきたことよりも、あの時河原で泣いていた同じ年頃の少年が、目の前にいる十であったことに、智は一層の驚きを見せた。
「でもどうして私だと?」
「おいらも最初は気付かなかったんだ。けどよ、あんたの顔には見覚えがあって…」
「まあ、そうでしたか…」
智は手拭いを丁寧に畳み直すと、そっと自身の胸に宛がった。
そして深々と潤に向かって頭を下げた。