第5章 抱き続ける諦念と愛惜の想い
智の指が触れた部分が熱くなるのを感じながら、潤はふと智の指先へと視線を落とした。
「なぁ…、その手…」
「えっ…?」
言われて自分の手をまじまじと見た智は、自分の指が土やら草やらで汚れていることに気付き…
「まぁ…、どうしましょう…」
続けて潤の顔を見上げ、驚いたように目を丸くした。
見れば潤の頬は、木屑を取って綺麗になるどころか、ところどころ土で汚れている。
「私としたことがとんだことを…」
智は長い髪を揺らしながらおろおろとするが、込み上げてくる笑いが堪えきれず、とうとう吹き出してしまう。
「お、おい、何だよ急に…」
「だって、そのお顔…」
「おいらの顔がどうしたって?」
言われて智は潤の手を取ると、水をいっぱいに満たした甕(かめ)まで引いた。
「いったいなんだってんだぃ」
潤は首を傾げながらも、甕に満たした水に自身の顔を映し一言…
「こいつぁひでぇや…」と呟くと、甕の上に添えてあった柄杓を手にし、掬った水を頭から被った。
そして濡れた頭をぶるんと振ると、散切り頭の毛先から水滴を飛ばした。
「手ぇ、出しな」
「え、あ、はい…」
智が両手を出し、そこに水がかけられ、智は手に着いた汚れを洗い流した。