第5章 抱き続ける諦念と愛惜の想い
「よし、終わったぜ」
物干しの修理が終わり、潤は手に着いた木屑を払ってから、八巻代わりにしていた手拭いを頭から外した。
「父ちゃんならもっと上手くやるんだろうが、何しろおいら見習いだから…」
「いえ、十分です。助かりました。私ではとてもここまでは…」
しっかり元通りになった物干しに、智が目を輝かせる。
「あんたの翔の兄貴は?」
「お師匠さん…ですか?」
智が聞き返すと、潤は愉しげに酒を酌み交わす二人にちらりと視線を向け、頷いた。
「見たところ、なかなかの腕っ節だと思うんだが…」
確かに潤の言うように、翔の体躯は着物の上からでも逞しくは見える。
ところが…
「まあ、とんでもございません。お師匠さんときたら、ご自分の髪を結わえるのすら、随分と時間がかかってしまう程不器用なんですよ?」
大工の真似事なんてとんでもない、と智はくすくすと肩を揺らした。
「へ、へぇ…、とてもそんな風には見えねぇけど…、人ってぇのは見かけによらねぇもんだな」
潤も智に釣られて笑う。
その時、智の手が不意に潤へと伸びて来て…
「動かないで、頬に木屑が…」
ぴくりと身体を震わせた潤の頬に、智の指がそっと触れた。