第5章 抱き続ける諦念と愛惜の想い
智に連れられ、縁側から庭に降りた潤は、庭に植えられた草木を見回し、「手入れは智さんが?」と智に語りかけた。
「ええ、普段は私が…。あ、でも大きな木は私ではとても…」
「そりゃそうだろう。これ程の立派な松は、とてもあんたのその細い腕じゃ適わねぇだろうからな」
潤は垣根に沿うように植えられた松の木を見上げた。
「それで、その物干しはどこに?」
「こちらです」
縁側の前を通り、裏庭に回った智は、無様に倒れてしまった物干しを指さし、潤に見せた。
「こいつぁひでぇ…」
「なおり…ますか?」
「道具もねぇし、おいらで出来るかわかんねぇけど、出来るとこまでやってみるよ」
潤は半纏を脱ぎ、腹当てだけの姿になると、腰に下げていた手拭いを捻って、八巻代わりに頭に巻いた。
その姿に、何故だか智の胸がきゅっと痛くなる。
頬は熱くなり、視線が隆々とした潤の腕に注がれた。
こんな恥ずかしげもなく見蕩れてしまうなんて、私は一体どうしたのかしら…
こんなこと、初めてかもしれない。
これまで感じたことのない感覚に戸惑う智は、どうにか気を紛らそうと、庭に生えた雑草を抜き始めた。
…が、やはり潤から目を離すことは出来なくて…
智は草を毟る手を止めたまま、潤を見つめ続けた。