第5章 抱き続ける諦念と愛惜の想い
話も纏まり、翔が昌弘に向かって「いっぱいどうです?」と声をかける。
病み上がりであることも一瞬頭を過ぎったが、そこはやはり無類の酒好きでもある昌弘だから、当然断ることはしない。
「まだ外も明るいのにお酒なんて…」
「そ、そうだよ、父ちゃん…」
智も潤も二人に苦言を呈するが、二人の声など全く耳に届いてはいないようで…
「智、先日相葉の若い衆から貰った酒があっただろ、それを持って来てくれないか」
「はい…」
智は少々呆れ気味に返事をし、土間へと向かうと、釜戸の脇に隠しておいた酒壷を取り出し、湯呑み茶碗と共に運んだ。
「あまり飲み過ぎないようにしてくださいね?」
「分かってる」
翔の「分かってる」程信用出来ないことわ知っている智は、小さな溜息を一つ落としてから、潤の方へと視線を向けた。
一度酒宴が始まれば、途端に暇を持て余すことになるのを、潤も智も幼い頃から良く知っている。
「あの…、お願いしたいことが…」
智が切り出すと、潤は少し驚いた様子を見せたが、すぐに笑顔を浮かべた。
「な、なんでぃ、おいらに出来ることかい?」と。
「実は庭の物干しが倒れてしまって…」
先日の激しい風雷のせいで、庭に立ててあった物干し用の台が倒れてしまったことを、智はずっと気にかけていた。