第1章 憧憬の背中
そんな日が一月は続いただろうか…
宛など無く出かけては、小さな肩を落としては小さな溜息を零す潤を見兼ねたのだろう、昌宏は河川敷で小さな足を川面に浸しては、揺らす潤の隣に腰を下ろした。
「父ちゃん…、おいら、あの子に嫌われちまったんだろうか…」
昌弘と顔を合わせることもなく、視線をじっと水面に向けたまま、潤が声を震わせる。
「さあ…、どうだろうな…」
それきり昌宏は言葉を発することはせず、ただ潤が泣き止むのを、辺りが薄闇に染まるまで、辛抱強く肩を叩き続けた。
そうして漸く口を開いた潤は、
「父ちゃん…、おいら、もうあの子には会えねぇのかな…」
頬を濡らす涙を袂で乱暴に拭った。
男が泣くなんてみっともない、と昌宏に諌められることは承知で…
ところが昌宏は、拭っても拭ってもまた頬を濡らす潤を諌めるどころか、ざんばら髪を色褪せた組紐で括っただけの頭を優しく撫でた。
「いいか潤、人と人ってぇのはな、縁さえありゃまたどこかで繋がんだ」
「え…ん…?」
「そうだ、縁だ。今はまだわかんねぇかもしんねぇが、そのうちお前にも分かる時が来るさ」
小首を傾げ見上げる潤に、昌宏は大きく頷き、いつものように大きな手で潤の髪をくしゃりと掻き混ぜた。
そして潤の小さな手を取ると、一回りも二回りも大きな自分の手を重ね合わせた。