• テキストサイズ

T・A・T・O・O ー彫り師ー【気象系BL】

第1章 憧憬の背中


ところが昌宏は潤を咎めることも、叱ることもなく、ただ一言…

「明日もしその娘っ子に会えたら、ちゃんと謝んだぞ」

そう言って、大きくて無骨な手で、潤の髪をくしゃりと掻き混ぜた。

潤はそんな昌宏の様子を不思議に思いながらも、小さく頷くと、風が吹く度軒先で揺れているであろう手拭いに、河原で会った娘の姿を重ねた。


明日も会えるかな…


そんなことを思いながら。




翌日…

すっかり乾いた手拭いを、丁寧に畳んで懐に忍ばせ、潤は夜が開けて間もない河原へと向かった。

せっかくの親切を無下にしてしまったことを、娘に謝るためだ。

勿論、昌宏に言われたことも理由の一つではあるが、潤自身、幼いながらに申し訳ないことをしたと、心の底で悔いていたからだ。

潤は昨日娘が手拭いを落とした川辺りに膝を抱え、じっと娘が再び現れるのを待った。

…が、待てと暮らせど娘が河原に姿を見せることはなく…

やがて日も落ちかけた頃、昌宏が迎えに来たのを期に、潤は漸く重い腰を上げた。


明日こそ来るかな…


長屋までの道程、昌宏に手を引かれながら、潤は懐に忍ばせた手拭いを握り締めた。



潤は来る日も来る日も、手拭いを懐に、河原へと向かった。

雨の日も、風の強く吹く日も、ただあの娘に会いたい一心で…
/ 200ページ  
スマホ、携帯も対応しています
当サイトの夢小説は、お手元のスマートフォンや携帯電話でも読むことが可能です。
アドレスはそのまま

http://dream-novel.jp

スマホ、携帯も対応しています!QRコード

©dream-novel.jp