第5章 抱き続ける諦念と愛惜の想い
一日でも早絵図を自分の目で見たいと願っていた潤だったが、如何せん昌弘の体調が中々優れず、昌弘の回復を待って、漸く翔の元を訪ねた。
門扉を開けると、そこにはやはりというか、小鳥と戯れる智の姿があって…
その愛らしくも無邪気な姿に、潤は胸がきゅっと締め付けられるような感覚を覚えた。
…が、昌弘の前では平然とした態度を装う。
ここでまた昌弘がごねるような事があっては、それこそ悶々所ではなくなってしまうからだ。
それでも…
「お待ちしておりました。さ、中へどうぞ」
腰まで伸びた長い髪を結もせず、風に靡かせ微笑む智の姿には、堪えきれずに顔が綻んでしまう。
「翔の兄貴は…」
「中でお待ちですよ」
昌弘と潤は智に促され、翔の仕事場となっている板間へと上がった。
「今お茶をお持ちしますね」
そう言い置き、土間へと駈ける姿は、野原を駈ける子兎のようにも見え、潤の目は自然と智の姿を追いかけていた。
当然、昌弘が潤の様子に気付かないわけもなく…
すっかり治ったにも関わらず、大袈裟に咳き込んでみせた。
「やっぱり日を改めた方が良かったか?」
潤は昌弘の背中を摩り、心配そうに顔を覗き込むが、意識だけは絶えることなく智の足音へと注がれていた。