第5章 抱き続ける諦念と愛惜の想い
黙りこくったまま時間が流れ、昌弘が漸く口を開いた。
「俺ぁよ、潤…」
そう切り出した昌弘の顔が、さも苦しげに歪んだように見えた潤は、ここ数日昌弘を苦しめている風邪のせいだと思い、そっと背中を摩った。
…が、実際はそうではなくて…
「男が男に惚れることは、別に何とも思わねぇ。だけどよぉ、道ならぬ恋路に疲れた挙句、酷ぇ最期を迎えた奴らを、これまで嫌って程見てきた」
一息に喋ったせいか、咳き込みそうになるのを堪えるかのように、昌弘は胸に手を当て、息を整える。
その間も、潤の手は昌弘の背中を摩り続けている。
「だからよぉ、潤…。どうか間違いだけは冒さないでくれねぇか」
この通りだ、と再び頭を深く下げる昌弘に、潤は小さく息を吐き出すと、背中を摩ってあたた手を止めた。
「父ちゃんの言いてぇことはよーっく分かった。でもよ、父ちゃん? おいらは確かにあの子に惚れてんのかもしれねぇし、今でもあの子のこと考えただけで、この辺が締め付けられるって言うかよ…」
潤は言いながら自身の胸に手を当て、切なそうに顔を歪めた。
まだ心から人を愛した覚えのない潤にとっては、それが人を…智を愛するが故の痛みだとは、全く知る由もない。