第5章 抱き続ける諦念と愛惜の想い
潤が膝の上で握った拳を震わせる。
「で、でもよぉ、あの子に紋々わ入れて貰うことを承諾したのは、他でもねぇ、父ちゃんじゃねぇか。それを今更…」
確かに、兄貴と慕う翔に懇願され、まだ修行中の智に潤の背中を貸すよう、説得したのは昌弘だ。
潤が納得出来なくて当然だ。
「仕方ねぇじゃねぇか…。あん時はまだ、お前ぇが生まれて初めて惚れた相手が、まさか智坊だったなんて知らなかったからよぉ…」
首を項垂れ、ぽつりぽつりと言葉を繋いで行く昌弘に、潤の怒りが益々増して行く。
「じゃあなんでぃ、あの智って子が、あの時の子じゃなかったら…父ちゃんの考えもまた違ったってわけかよ…」
「まあ…そうだな…」
俯いたままで、潤を一切見ることなくそう呟いた昌弘に、とうとう潤の堪忍袋の緒が切れた。
「冗談じゃねぇ! おいらもう決めたんだ…」
潤はすっと立ち上がると、その場に仁王立ちになり、羽織っていた半纏を脱ぎ捨てた。
「おいらのこの背中は、あの子…智に預けるってな。いくら父ちゃんの頼みでも、こればっかりは絶対譲れねぇ」
鼻息も荒く言い放った潤の顔には、たとえ昌弘であっても変えようのない、覚悟のような物が見てとれた。