第5章 抱き続ける諦念と愛惜の想い
一瞬にして困惑の表情へと変わった潤を見て、昌弘は小さく息を吐き出すと、木椀と木匙を盆の上に置いた。
「お前ぇが言えねぇってんなら、俺が詫び入れとくからよ、だから…」
昌弘の岩のようにごつごつと硬い手が、膝の上で握った潤の手を包んだ。
…が、潤はその手を払い除けた。
「こんな餓鬼の頃から、おいらが紋々入れたがってたの、父ちゃん知ってるだろ? なのに詫びって何だよ…」
「ああ、知ってるさ。よーく知ってる。でもよぉ…」
子供の頃の潤は、割かし気性も穏やかで、素直で大人しい子供だった。
その反面、一度癇癪を起こし始めると、親の昌弘ですら手がつけられなくなることも、度々では無いにしろあった。
その気性は、年を重ねた今でもそう変わってはいない。
「おいらがどれだけこの日を心待ちにしてたか、父ちゃんだって知ってんだろ? なんで今更そんなこと…」
「でもよぉ、今度ばかりは堪えてくれねぇか? な、頼むよ潤」
普段滅多なことでは人に頭など下げることのない昌弘が、ましてや息子である潤に向かって、額が畳に擦れる程深く頭を下げている。
それには流石の潤も気を鎮めるしかなく…
「父ちゃんがそこまでするってぇのには、それなりの理由ってもんがあるんだろ?」
潤は頭を下げ続ける昌弘を覗き込んだ。