第5章 抱き続ける諦念と愛惜の想い
「父ちゃんの息子だぜ? 粗相なんかするもんか」
それを聞いた昌弘は、安堵の表情を浮かべ、漸く椀と匙を手に取った。
「ところでよぉ、父ちゃん」
「なんでい…」
「今日おいらんとこに、櫻井の兄貴の遣いだってお人が来てよ…」
嬉々として話し出した潤の様子に、匙を口に運びかけた手が止まった。
「お、おぅ…、それでなんて?」
答えを聞くまでもなく、昌弘は潤が何を言うのか、瞬間的に悟った。
それでも敢えて聞き返したのには、予想が外れていて欲しいという、昌弘の願いからでもあった。
だが、損な昌弘の願いも虚しく…
「頼んでいた絵図が出来上がったから、一度来てくれって…」
儚くも無惨に散った。
「それ…で…?」
「だからよぉ、明日の帰りにでも一度伺おうと思ってんだが、どう思う?」
余程待ち遠しかったのだろう、子供のような笑顔を見せる潤。
その一方で、昌弘は苦虫を噛み潰したような、渋い顔をしている。
「ああ…、楽しみだなあ…」
昌弘の気など知らない潤は、今にも踊りだしたくなりそうな気持ちを堪えるかのように、目を細め天井を見上げた。
「なあ、潤…」
「ん、なんだい父ちゃん」
「やっぱりよぉ、俺ぁ止めた方が良いと思うんだ…」
「え…?」
思いもよらない昌弘の言葉に、潤は表情を一気に曇らせた。