第4章 二つの神に宿さるる生命
「どうした?」
翔が聞くと、智はほんのりと涙を浮かべ、左右に立つ神像を目線だけで追った。
「怖いか?」
「いえ、そうではありません。ですが、何やら怒っておられるようで…」
言われて翔は両脇にそびえる二対の神像に目を向けるが、幾度となく目にしてきたこともあってか、智が言うように怒っているようには見えない。
「良いかい、智。風神も雷神も、決して怒っているわけではないのだよ?」
「で、でも、お顔が…」
確かに風神も雷神も、一様に目を見開き、鬼の形相をしてはいる。
「そうだな、怒っておられるように見えるのは、実は悪を懲らしめるためでもあると、私は思っていてね…」
「悪…ですか?」
「そう、悪だ。そして風神も雷神も、風雨を整える神だとも言われているんだよ」
翔に諭され、そっと二対の像を見上げてみると、不思議なことに二対の像に対する恐怖心が薄れて行くのを、智は感じていた。
「さあ、先にお参りを済ませてから、茶店でも寄って団子でも食おうか」
「まあ、お団子ですか」
団子と聞いて急に目を輝かせる智に、翔は少しだけ肩を竦めると、心の中でそっと二対の像に手を合わせた。
それから寺参りを済ませた二人は、智と交わした約束通り茶店に寄り、満足の行くまで団子を楽しんだ。