第4章 二つの神に宿さるる生命
翔の広い胸に抱かれ、智は微かに頬を赤らめた。
そして翔の顔を見上げると、意地悪気に笑った。
「さて、それはどうでしょう。お師匠さんよりお慕い出来る方が現れたら、その時は…」
「私を捨てるのか?」
「そうして欲しいのですか?」
尚も意地悪く言い、智は人目を気にしつつも、翔の懐にそっと手を差し入れ、素肌に触れた。
すると翔は、少しだけ腰を屈め、智の耳元に唇を寄せ、ふっと息を吹きかけた?
「ひゃっ…」
当然、耳の弱い智であるから、それだけで身体が自然と跳ね上がってしまう。
「も、もう…、お師匠さんの意地悪…」
「どちらが意地悪だ。散々私を甚振っておいて」
「い、甚振るとは、そんな…」
智はあたふたとした様子で翔から離れると、熱を持った頬を両手で包んだ。
その様子に、翔は声を上げて笑うと、再び智の手を取り、人混みの向こうに見え隠れする山門へと、歩を進めた。
思いの外多かった人出に圧倒されながら、漸く山門へと辿り着いた二人は、微かに浮かび始めた汗を着物の袖でそっと拭った。
そして二人並んで山門の前に立つと、両手を合わせ、深々と一礼をしてから、漸く山門を潜ろうと、一歩を踏み出したその時だった。
智が怯えた様子で翔の腕にしがみついた。