第4章 二つの神に宿さるる生命
「どうした、先程から私の顔ばかり見て…。もしや私の顔に米粒でも着いているのか?」
「いえ、そうではありません。ただ…」
翔に問われ、咄嗟に首を横に振った智は、丁度すれ違った親子連れをそっと指さした。
「あの親子連れがどうかしたか?」
「少しだけ、その…」
「羨ましいか?」
先の言葉を濁す智に、翔が助け舟を出すつもりで問いかけると、智はこくりと頷き、それから瞼をそっと伏せた。
十五を過ぎ、武士の家の子であれば当に元服を迎えている年頃ではあるし、随分と大人びた表情をすることも増えて来た智ではあるが、まだまだ幼子のような一面も多く見られる。
そんな智を、翔は愛らしいと思いこそすれ、早く大人になって欲しいとは、一度たりとも思ったことはない。
今のままの智が、翔は堪らなく愛おしいのだから。
翔は智の頭を撫でると、愛おしい者だけに見せる柔らかな笑みを浮かべた。
「お前には私がいる。それでは駄目か?」
「そんな駄目だなんて…私はお師匠さんの元にいられて幸せです」
「そうか」
翔は満足気に目を細めると、人目も憚ることなく智を抱き寄せた。
「お師匠…さん…?」
「私も幸せだよ、お前みたいな子が私の傍にいてくれて。この先も私の傍にいてくれるかい?」
それは嘘も偽りもない、翔の本心であり、紛うことなき本懐でもあった。