第4章 二つの神に宿さるる生命
しかしながら、翔の助言に従う他策のない智は、翔に言われるままに、暫くの間筆を手に取ることをやめた。
史机の前に座ることもやめ、日がな一日庭に茂る草木の世話をしたり、時には縁側に迷い込んだ小鳥と戯れたり…
翔の手伝いをすることも、翔雅頼まない限りはすることはなかった。
承知の仕事を手伝えば、否が応でも絵図のことを考えてしまうことになる。
それでは筆を持つことを堪える意味がなくなると、智なりに考えてのことだった。
そうして絵図と向き合うことを一切やめた智だったが、するとどうだろう…
不思議と張り詰めていた気持ちが軽くなり、ささくれだっていた心が自然と凪いで行くのを、自身でも感じられるようになった。
表情も以前の通り明るくなり、翔が目に入れても痛くないと思える程の、愛らしい笑顔が戻り始めた。
その様子をただ黙って見ていた翔だったが、期を見て智を寺参りに連れ出すことにした。
外に出ることをあまり好まない智だったが、翔に縁日があると聞かされ、ならばと重い腰を上げた。
寺までの道すがら、翔に手を引かれ歩く智は、特別見慣れない景色でもないのに、辺りをきょろきょろと見回し、たまに足を止めては道行く親子連れを眺めては、翔の顔をじっと見つめた。