第4章 二つの神に宿さるる生命
朝餉の膳を間に向い合って座った二人は、特に会話をするでもなく黙々と箸を口に運び続けた、
そして先に食事を終えた翔が史机に目を向けると、そこには真新しい半紙が広げられており…
「もしや風神と雷神の絵図を?」
翔が問うと、智は口に運びかけた箸を膳に置き、こくりと頷いた。
「良い絵図は浮かんだか?」
「いいえ、まだ…」
「風神と雷神はお前が最も得意とする絵図ではなかったか?」
「そうなんですが、どうしても思い浮かばなくて…」
翔はこれまで幾度となく、智の描いた風神と雷神の絵図を目にして来た。
その智が、最も得意としていた筈の絵図が描けないと言うのだから、翔も驚きを隠せず両腕を組み、首を傾げた。
…が、そう簡単に良策が浮かぶわけでもなく…
「じっくり向き合ってみるのも良いのではないか?」
「それはどういう…?」
「無闇矢鱈と描くのではなく、お前が描きたくなるまで、待てば良い」
「で、ても、それでは…」
絵図の完成を待たずして、潤の背に絵図を彫ることなど出来ないことを、長いこと翔の傍で翔の仕事ぶりを見てきた智は良く知っている。
だからこそなのだろう、途轍もない焦燥感に駆られている智は、翔の進言に些かどころでなく納得が出来ずにいた。