第4章 二つの神に宿さるる生命
「ただ…、なんだ?」
色白の頬を赤く染め、前掛けの裾を摘んだ指輪をもじもじとさせるだけの智に、翔は言葉の続きを促すが…
「な、何でもありません。さ、朝餉にしますよ」
智は翔の問には答えることなく、腕からするりと抜け出し、たすき掛けにしていた紐を解いた。
そしてすっと立ち上がった智は、床に散らばった数十枚はあるだろう半紙を横目でちらりと見やると、深い溜息を一つ落としてから、床の上で一纏めにし、くしゃりと丸めた。
「これは私が片付けておきますね」
「あ、ああ、分かった…」
折角描いた物が無惨な仕打ちを受けるのを、翔は複雑な面持ちで眺めていた。
色こそ着けてはいないが、翔にとっては渾身とも言える絵が、そのような扱いを受けるのは切なくもあり、また悲しくもある。
「やれやれ…」
智が土間に下りるのを見計らって溜息を落とした翔は、ふと衝立の後ろでひらひらとする物に目を向け、手に取った。
「これは…」
それは翔が描いた智の姿絵で、どうやら床に散らばった際、隙間に入り込んでしまった物らしい。
翔はたった一枚残された半紙を丁寧に折り畳むと、そっと懐に忍ばせた。